PCRで言われる「感度」「特異度」について

いまだに分かりやすい解説を見ないので,一気にツイートしたものを加筆修正して掲載します。

最初に定義。

感度:病気である人を正しく病気であると判定できるかどうかの指標
特異度:病気でない人を正しく病気でないと判定できるかどうかの指標

本題に入る前に,ここで一つ,法学のことわざ(法諺)を示します。

「一人の冤罪者あらんよりは十人の逃罪者あらしめよ」

穂積陳重『法窓夜話』

さきほどの定義を,このことわざが想定する刑事訴訟に当てはめれば,
感度:真犯人を正しく有罪とする指標
特異度:無罪の者を正しく無罪とする指標

となります。
この場合,感度が高くても,特異度が低かったら大惨事です。無実なのに絞首台に送られる人が続出します(日本の司法はそんな感じか)。
特異度が100%(冤罪ゼロ)なら,感度がたとえ低くても,何人取り調べても平気ですね,間違って有罪にはならないのですから。

話を医学に戻すと…。
たとえば,「鼻水あり」という症状で「インフルエンザ」を判定する場合。
感度:鼻水があるからインフルエンザとは断定できない(花粉症かもしれない)→感度は低い
特異度:鼻水があるからインフルエンザでないとは断定できない(発熱だけのインフルもあるが鼻水はよくある)→特異度は低い

新型コロナのRT-PCRの場合。
感度:(ひとまず置く)
特異度:PCRで陰性であれば,100%新型コロナではない。なぜならば,PCR以外に「新型コロナである」と断定できる診断方法が存在しない。

新型コロナのRT-PCRで,仮に感度が低いとするならば, 「新型コロナであるのに,正しく新型コロナと診断できない=見逃し例が発生する」 ということになる。しかし,「PCR以外で検出できない病気を,PCRが見逃す」って日本語理解できますか?私はそんな日本語は受け付けません。
「新型コロナでない人を,正しく新型コロナでないと100%言いきれる」&「ほかに方法がない」という,「特異度100%」だけで感度を考える必要がないのは,統計学的にはこういうことです。

多種多様な病気が知られている現在,医学における診断は除外診断が中心です(問題はある)。つまり,Aでもない,Bでもない,ならばCだ,というように思考していく。そのときに,「100%の特異度」があって,「陰性だから新型コロナではない」と言い切れるのは強い武器です。

新型コロナは無症候者が8割と言われ,症状が出ても多くは「発熱」などの,他の病気にもあるものです。では,「PCRの感度は7割だ」と言いふらす向きがありますが,受診のきっかけの一つになる「発熱」の感度・特異度は?となると,ともにコンマ以下でしょう。それなら「熱があっても感度が低いから検査を受けるな」と言うべきですが,彼らはそうは言いません。ここに,PCR抑制論の矛盾があります。

Theory:「PCRの感度は7割」を見たら→書いている奴は馬鹿だと思え

注記:いろいろ誤解されている気がしますが,私の専門は医療統計です!情報公開法ではないのです!
現在,大学・研究機関に対して求職・応募中です。どこか拾ってくれませんか?

PCRで言われる「感度」「特異度」について」への1件のフィードバック

  1. 「PCRで陰性であれば,100%新型コロナではない。」は陰性反応的中割合(NPV)ではないでしょうか?
    特異度100%であれば値は同じになりますが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。